よだんのよだん(巻末コラム)
「トラブルメーカー」といえば、相川七瀬以来の懐かしい響きだったのですが、このタイトルの作文で、私に強烈なインパクトを与えたのが、ずぶの学校第一の生徒である宇希さん(4頁に登場)でした。
それは彼女が中学二年生の時。定番教材である太宰治「走れメロス」の授業を終えた後、本編に書かれていないことを想像して書くというお題の作文をしました。題して「裏メロス」。誰を主人公にして書いてもオーケー。竹馬の友セリヌンティウスでも、邪知暴虐の(?)王ディオニスでも、大団円でメロスにマントを捧げる少女でも。
そこで宇希さんは、メロスの妹に着目しました。妹は、急いで帰ってきてすぐに結婚式を挙げようとする兄をいぶかしみます。「またですか!」そうやって面倒なことに巻き込まれるのはもう慣れっこ。でも自分の結婚式まで兄の都合で左右されるなんて、許せない! と憤っている表情を、恥じらって赤面しているのだととらえる、どこまでもおめでたい兄。
メロスは我々にとっては「信実」の存在を証明した英雄でも、唯一の肉親である妹にとってみれば次々と問題を起こす厄介者「トラブルメーカー」だったのです!
なんともぶっとんだ発想。才能を感じました。
(後々お話を聴くと彼女にも愉快なお兄さんがいるそうで、妹の心情が妙にリアルだったのはドキュメンタリータッチだったからかも。)
それからというもの、「トラブルメーカー」ということばには、確かに英雄のイメージがつきまとってくるのでした。そんな折、発見したのはあの、アパルトヘイト撤廃に尽力した英雄ネルソン・マンデラさんのミドルネーム「ホリシャシャ」。
なんと、これはコーサ語で「トラブルメーカー」という意味だというではないですか! ワーオ! うちふるえました。
そう。そう考えると、素朴で単純で正直な「問題児」が、「不良」が、異論を唱え、行動するひとであり、英雄に転ぶ可能性を秘めたでっかい存在なのだ。(尾崎豊的な?)面倒なひと、ごろつき、役立たずを排除せず(だってそれ自分かも)、温かくおもしろがれ……ないまでも、ゆるせる教室、社会にしたい。そんな自分でありたい。
作文「トラブルメーカー」は、最後まで読めばわかるが、実はとってもハートフルなタイトルなのだ。「ああ、あの時のことを思い出すと腹が立ちます。なんて理不尽なんでしょう。しかし、私はこれからも兄の勝手に巻き込まれるんでしょう。まあ、それも仕方無いです。たった一人の兄ですからね。」
編集・イラスト・文 あかまつみさき Misaki Akamatsu
1986年大阪生まれ、大阪市在住。中・高国語教師をしながら、15年にゆるいまなびや、人間アトリエ「ずぶの学校」を開校し、校長に就任。好きなひと、岡本太郎、佐藤二朗、サティ。ずぶぬれでは、まわりのひとにねだって「余談」を集めています。自分のことばを話すこと、話してもらうことがいちばん嬉しい。
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